夜尿症(おねしょ)
夜尿症について
日本では、推定78万人のお子さんが夜尿症に悩んでいると言われています。
しかし、その中で適切な治療を受けているのはわずか4万人ほどとされていることをご存じでしょうか。
その理由としては、なかなかクリニックに相談に行く勇気が出ないという患者さんが多いこともありますが、大前提として夜尿症を専門とする医療機関が少ないという現状があります。
また「夜尿症は治療ができる疾患」であることをご存じないご家族も多いと感じています。
当クリニックは夜尿症の専門クリニックとして、なかなか治療に辿り着けない患者さんの受け皿になれたらと考えています。
夜尿症とは?
乳幼児期の「おねしょ」は、全てのこどもにみられる、ごく自然な現象です。それに対して、夜尿症とは、ある程度の年齢に達しても「おねしょ」が治らないという状況を言います。
具体的には「5歳以上、月に1回以上、3ヶ月以上継続しておねしょがある」という状態を夜尿症と診断します。
多くの場合、夜尿症は自然に改善しますが、改善のスピードは意外とゆっくりであることが知られています。
そして、一部の方は成人になっても夜尿症が続くと言われています。
夜尿症は治療が必要ですか?
夜尿症は、体の痛みや苦しみを伴うものではありません。
もしかしたら、ご家族から見て、お子さまは一見、気にしていないようにも見えるかもしれません。
しかし夜尿症が子供に与える精神的ダメージは、親の離婚についで強いということが分かっており、これは「いじめ」を受けるより強いストレスになることが明らかになっています。
夜尿症を治療する最大の理由は、お子さまが今、人格を形成するのにとても大切な時期にいるからです。
「おねしょ」という、自分ではどうにもできない失敗を繰り返す無力感、忙しいのに朝から親に迷惑をかけている自責の念。
朝のスタートをそんな気持ちで過ごすことで、自分に対する自信(自己肯定感)が失われていることがあります。
夜尿が改善すると自己肯定感も回復することが分かっていますので、一刻も早く、夜尿症から解放させてあげることが必要だと考えています。
世代別のお悩み
夜尿症は、それ自体が大きな病気というものではありません。
しかし、お子さん本人はとても悩み、傷ついていることがあります。
「自分は病気なのではないか」「周りと違うことが怖い」「治らなかったらどうしよう」など、深刻に悩んでしまうこともあるでしょう。
当院では、年齢に応じた夜尿症の診療を行っています。ご家族、お子さまのお気持ちに寄り添いながら、無理のない治療を行っていきたいと考えています。
①未就学児
この時期は、おもにご家族の不安がメインになると思いますが、おねしょが続くからといってそこまで深刻に悩む必要はありません。
5歳6歳になっても改善されない場合、夜尿症と捉えて治療を開始する必要はありますが、お子さまにストレスをかけないよう、生活環境を見直しながら、ゆっくり改善に取り組んでいきましょう。
②⼩学⽣
お子さまが小学生になると、個人差はありますが、ご本人がひそかに夜尿症を気にし始めています。
実際「本人が気にし始めたから」という受診理由がとても多いのですが、本当は、本人が気にているように見えなくても、小学生で「おねしょ」が続いている場合は、ぜひ受診をしてほしいと思います。
もちろん、宿泊行事までに時間がない時も、安心して参加できるよう、一緒に対策を考えていきますので、お気軽にご連絡をいただけたらと思います。この文章を読んだ小学生のみなさん、もし「おねしょ」に不安を感じているのなら、ぜひ家族に相談してくださいね。
③中⾼⽣
夜尿症は、幼少期からずっと持続している夜尿症だけでなく、ある日突然、始まったり悪化したりするタイプの夜尿症が見られます(二次性)。
通常の夜尿症と違い、何らかの病気や心理的な影響が隠れている場合もありますので、まずは夜尿症の原因を探すことが必要です。
この年齢になると、夜尿症があること自体で精神面が不安定になってしまうケースも少なくありません。
受診することに戸惑いがあるかもしれませんが、環境に配慮した診療をさせて頂いていますので、安心してご相談ください。
夜尿症とおねしょの違い
夜尿症と「おねしょ」は、症状だけを見ると同じもののように思えます。
5歳未満の子供しかり5歳以上で1か月に1回以上の夜尿が3か月以上続く場合は、おねしょとは区別して病気と捉え「夜尿症」とよびます。
「おねしょ」は成長していくにつれて改善されるため治療の必要はありませんが、夜尿症は適切な診療を受けて改善を図っていくことが大切です。
夜尿症の原因
夜尿症の原因は、親の育て方の問題や本人の性格ではありません。
夜尿症は「夜に目を覚ましにくい体質」がベースにあり、さらに「夜の尿量」と「膀胱の容量」のバランスが崩れることにより起こると言われています。
さらに遺伝的な素因や、神経発達の遅れも夜尿症に関係する重要な要素となっています。夜間尿量が多い場合
治療のポイントは、夜間尿量を通常の量に減らすことです。
夕方以降の水分の摂り方や食事内容の見直しなど、生活指導を行います。
膀胱に尿がしっかり貯められない場合
膀胱の容量が小さい患者様に対しては、尿がしっかり貯められるような治療を考えていきます。
治療の中でも、当院ではアラーム療法を積極的に導入しています。
治療のタイミング・⽬安
夜尿症は、成長とともに自然に改善されていきます。
しかし、自然に夜尿が治るまでの期間は、意外と長いことがわかっています。
1年当たり、夜尿のお子さんは10-15%ずつ減っていきますが、この計算だと、小学1年生の半数は高学年までに夜尿症を完治させることは難しいことになります。
だからこそ早めにクリニックで診断を受け、継続的な治療を行っていくことが重要になります。
ご本人、ご家族が「このままで大丈夫かな」と不安を抱くようなことがありましたら、一つの治療開始のタイミングだと思ってください。
一緒に治療や改善方法を考え、一日も早く夜尿症のない朝を迎えましょう。
夜尿症の治療
治療ではまず、生活習慣についてお子さんや親御さんとお話をしていきます。
水分摂取の方法や排尿の習慣などを細かく伺うことで、改善できる部分が見えてくることがあります。
その上で、尿を減らすお薬を用いたりアラーム療法と言われる方法を試したりしながら、症状の緩和を目指していきます。
お子さんのストレスにならないよう、無理なく取り組んでいきましょう。
夜尿症の検査について
治療を始めるにあたり、なぜ夜尿をしやすいのかという原因を探すことから始めます。
夜間の尿量が多い、尿を少ししか貯められない、睡眠に問題があるなど、考えられる原因はさまざまです。
お子さんの夜尿記録から原因を究明し、必要な治療につなげていきます。
また、尿路の問題や内科疾患の可能性が見受けられる場合には超音波検査や検尿を行うなど、臨機応変に対応してまいります。
アラーム療法とは
アラーム療法(アラームトレーニング)とは、水分を感知してアラームが鳴る装置を使用したトレーニングです。
夜尿をすると直後にセンサーが反応して、音が鳴り、次第に尿が十分に貯められるようになります。
効果にはバラつきがあると言われていますが、上手にアラーム療法を行えば、高い有効性が期待できます。
アラーム療法の経験が豊富な当院で、しっかりサポートさせて頂きます。
この治療は、膀胱の容量を増やす治療であり、トイレのために起こすことが目的ではありませんので、お子さまの不眠の心配はありません。
よくある質問
夜尿症改善において、家で気をつけることはありますか?
規則正しい生活のリズムをつけること、無理に夜中に起こさないこと、強く叱らないこと、治療を焦らないことを意識していきましょう。
お子さんがストレスを感じることなく、心身が健康な状態で治療に臨める環境を作っていくことが親御さんの最大のサポートになります。
アラーム療法のメリットを教えてください
アラーム療法は、習い事や部活のために、十分な水分制限ができないお子さまにも取り組みやすい治療法です。薬を飲むわけではないので、身体への負担や副作用といった心配がありません。
治療後の再発が少ない点も大きなメリットと言えるでしょう。
子どもが外泊を怖がっているのですが、対策はありますか?
ある程度の年齢になると「修学旅行で漏らしてしまったらどうしよう」「友達の前で安心して眠れない」など、対人関係からの不安を抱くお子さんも多くなってきます。
宿泊のスケジュールが決まりましたら、受診の時に詳細を教えて下さい。一緒に対策を考えていきましょう。効果のあるお薬を持参すると、なお安心です。また、ご本人が嫌がらなければ、事前に引率の先生と話をしておくのもよいでしょう。
夜中にトイレのために起こしてもらう、朝少し早めに起こしてもらい別室で更衣をする、などの対策をしておくことで、より安心して参加できると思います。
学校の先生に、夜尿の相談をするかどうかは、必ずお子さまの気持ちを確認して進めてください。
寝る前の水分はどの程度までにしておくべきですか?
夕方以降、特に就寝前にたくさん水分を摂ってしまうと、夜尿のリスクが高まります。
とはいえ、夕方以降の水分を絶ってしまうと健康面で問題が生じてしまいますので、体に負担がかからない程度にコントロールしていくことが重要です。
例えば午前中からお昼の間に水分を多く摂り、夕食以降は200ml程度で抑えるなど、できる範囲で取り組んでいきましょう。
昼間のお漏らしも夜尿症と関係がありますか?
夜尿症のお子さまの4人に1人は、昼間の排尿トラブルをかかえていることが分かっています。
昼間のお漏らしは、学校生活にも支障が出るため、夜尿以上に深刻な問題です。治療には時間がかかることも多く、早めに受診することをお勧めします。